「…失礼致します」

そう言ってふすまを開けた雪は、部屋の中にいる客の顔を見て、かなり驚いた顔をした。

「…お久しぶり、元気そうね、雪」
「…さつきさん!お久しぶりです。…課長も来てくださったんですね。ありがとうございます。…社長は」

少し落胆した顔をした雪を見て、さつきはフッ笑みを浮かべた。

「…一緒に行こうって言ったんだけどね、仕事があるとか言って来なかったの」

「…週末は、オフの筈なんですけどね」

さつきの話を聞き、課長もそう言って困ったようなえみを浮かべた。


「…そんな、どうしてもしなきゃいけない仕事があったんですよ。きっと…さつきさんたちは、何時までお泊まりで?」

「…うん、子供達をばぁばに預けてるし、明日の夕方には帰るの。でも、それまでは、まー君と夫婦みずいらずで、過ごそうと思って。ここの温泉も、凄く良いって聞いたし、それも堪能しようかって、ね、まー君」

「…えぇ」

「…そうですか、ここの料理も山の幸も海の幸も最高なので、こちらもご堪能くださいね」

「…ふふ、すっかり女将業がいたについたわね、雪」
「…そんな事は」

「…ねぇ」

真っ直ぐにさつきは雪を見た。

「…どうしました?」
「…東京には、いつ帰ってくるの?」

「…それは」

冬馬が帰ってきたら、帰るつもりだが、まだいつ帰るとは決めていない。


「…琉偉が、寂しがってるよ」
「…そんなことあるわけないじゃないですか?」


「…白井さん、社長の気持ちはわからなわけないですよね?」