その後、雪たちは、今まで通りの生活に戻った。

相馬は、全ての罪の責任を負い、飛天グループから退いた。

飛天の新社長は、黒澤との友好を結ぶと共に、ホテル部門のバックアップをすると申し出たが、琉偉は断った。

それでも、黒澤が経営するホテルは全て軌道にのり、雪の両親の旅館も、まもなくして黒字経営に好転した。

…社長室、琉偉は書類を読みながら、仕事を淡々とこなしていた。

そんなとき、社長室を誰かがノックした。

「…どうぞ」

書類に目を落としたまま、琉偉が言う。

「…失礼します。社長、頼まれていた書類をお持ちしました」

入ってきたのは、課長。

「…ありがとう…なぁ、マー」
「…どうされましたか?他にまだ何か?」

「…いや、白井さんはどうしてるかと思って」
「…あぁ」

…今ここに、雪の姿はどこにもない。

だが決して、黒澤を辞めたわけではない。

課長はフッと笑みを浮かべた。

「…そんなに心配なら、直接行って確かめればいいじゃないですか?」

「…白井さんの邪魔はしたくないんだよ。一生懸命頑張ってる」

「…確かに、白井さんはよく頑張ってますよ。でも、もう白井さんが実家の旅館にいる理由はないじゃないですか?黒字に戻ったし、間もなく冬馬君も卒業してあの旅館に戻りますよ。社長、自ら迎えに行っても何の問題もない、違いますか?」