不機嫌な恋なら、先生と


「まあそれは、俺たちの共通してる人物で話しやすいのは彼女だしね」

「あ。彼女って言った。やっぱり実は付き合って……」

「いやさ。彼女って、そういう意味じゃないし。やばい。箱崎さん、酔うともしかしてキレキャラ?」とまた笑って言う。わたしは至って真面目に訊いてるのに。

「違いますよ。そんなに酔ってないです」

ぽかんと先生の肩を叩いた。「って」と、顔をちょっとしかめる。

「ちゃんと教えてくださいよ」

「真野さんとは何もない」

「本当ですか?」

「本当。まあ、この前、真野さんの話をしたときには、言いたいことがあったからなんだけど。伝わってなかったか」

「はい?なんですか?」

向き直ると身体がぐらんと揺れて、先生の腕におでこをぶつけた。

「バカ」と、先生は言って、私の手を握った。

頭がぽわんとしてるけど、先生と手を繋いでも、大丈夫だと気付く。

やっぱり、昔、好きだったからかな。

あのとき、繋いでみたいと思った。好きだから。

こういう街並みを、腕を組んで歩いたりしたかった。

終わった恋でも、そういうところはまだ有効なんだな。

そういえば、先生はなんで私と手を繋いでいるんだろう。

酔ってるからかな。危ないって。

「集中すれば、なんでも面白いと思うよ」

「え?」

「そう言いたかっただけだよ」