家の近くで降ろしてもらった。

「それでは、今日はありがとうございました。先生の小説、楽しみにしてますので」

「事務的」と、先生は私に言う。

「それは仕事ですから」と冗談ぽく明るく答えた。

「あのさ」

「はい?」

「いつまで着てるの?」

「着てる?」

「防御服」

「……そんなの着てないですよ。送っていただいて本当にありがとうございました。帰り、気をつけてくださいね」と、軽く会釈をして、先生を見送った。

先生って、沙弥子さんのこと好きなのかな。そんなこと頭に過って、何考えてんのって苦笑した。

だって、あんなに一生懸命に話すから。

そういえば、先生の元カノってさやだっけ。

同じ名前だからって、意識しすぎだ。

いつか見たスレッドの『匂坂は秘密の恋をしている』という、ふざけたタイトルが頭にすりこまれてでもいたんだろう。