「ん?合コンしたかったんでしょ?あ、個人的に紹介のほうが良かった?」

「ああ。うん。大丈夫。ありがと」

約束の日が平日だったので、もしかしたら仕事で遅くなるかもしれないとだけ伝えて電話を切った。

まさか、合コンになるとは思わなかったけど、私のお願いの仕方もおかしかったもんな。

でも本社の人が来るというのなら、先生に繋がる情報が聞けるかもしれない。

車に乗り込むと、「なに、にやけてんの?」と先生に聞かれる。

しまった。思いきり顔に出てしまっている。先生の首根っこを掴んだような気持ちになっているけど、隠さなければいけない。

あくまでも、私の立場は先生に従順な編集者だ。

「ちょっと今頂いた沙弥子さんのアドバイスを思い出して、笑ってしまっただけです」と、誤魔化した。

「真野さん?確かにあの人、思い出し笑いできるタイプだね。初めて会ったときのこと思い出すと未だに笑える」

「え。沙弥子さん、何かしたんですか?」

「マシンガントークが凄くて、圧倒された」

「あはは。仕事に対する熱意が凄いですからね」

「そうかもね。はじめ、この依頼を受けたとき、恋愛ものなんか書いたことなかったし、女性誌だし、そういう読者にうけそうな小説なんて書ける気がしなかったから、断ろうと思ってたんだけど、気がつけばやることになってたし。
今思えば、人を巻き込めるくらいの熱意があったんだろうね」