「あの、もしかして、仕事してたんですか?」
思いついてそう訊いた。
「ああ」
「いつもどこで書いてるんですか?」
「見たい?」と言うから頷いた。
「書斎という程じゃないけど」と前置きしながら寝室の隣の扉を開けた。二面の窓があるせいか、さほど広いわけではないのに、解放感がある。机とその横に、大きな書棚がふたつあった。小説の他に、資料のような難しい名前の本も並べられている。
「わあ」と感激の声をあげてしまう。
先生は笑った。
「なんで笑うんですか?」
「いや。嬉しそうだからさ」
「嬉しいですよ。この部屋から先生の物語が生まれるのかと思うと」
「別にここから、物語が生まれてる気はしないけどな」
「え?なんでですか?」
「いつも考えてるから。というか、物語がいつも一緒にある感じがするよ。ただそれをたまにここで書いてるだけ」
「……へえ。そういう感覚なんですね」
「たまにオンとオフを切り替えなきゃと思う時もあるよ。夢にも出てくるから」
「え?夢にもですか?それだけ考えてるってことは、本当に小説を書くことが好きなんですね」
「うん。最初はそうだったけどね。たまに、わからなくなる。今日みたいに、まっすぐな箱崎さん見てると」
「え?」



