「とりあえずリモコンを」と、先生の手から奪おうとすると身をかわされた。

「意地悪しないでくださいよ」とすねて見つめてから、「もういいです」と顔を背けた。こういうのって、私が困った顔をする度につけあがっていくに違いない。そう思ったからだ。

「年上好きなんだ?」

「え?」

「彼氏も年上?」

「それは先生には関係……」

「拒否権あったっけ?」と言うから、これも観察だと察する。

「そうですよ」と、そっけなく答えると、テレビがついた。何も言わず視線を戻す。

先生はちょっと退屈そうに見えた。座り方が落ち着かないのか、何度か座り直す。落ち着いたんだと思った頃には、寝息が聞こえた。

えっ?寝てる?どれだけ無防備なんですか?と呆れてしまうけど、車の中の会話を思い出した。

今はうちの連載と書きおろし小説を並行して書いてるみたいで、五時に起きて執筆して、帰宅後も執筆してから眠ってるそうだ。そういう生活をほぼ毎日続けてるって言ってた。

眠く、なるよね。きっと私が帰ったらまたパソコンに向かうんだろうな。

そこで、はたと気づく。もしかして今ってチャンスかもしれない。

先生には悪いけど、弱味を握る為に何かネタを探せるかもしれない。

立ち上がろうとすると、私の肩に先生の頭が急に乗っかった。びくっとしたのは私で、先生は目を覚まさなかった。

やめてほしい――でも疲れてるのに、起こすのはかわいそうだし、もう少し寝させてあげたい。そうも思う。

迷いながら、結局動くことが出来なくて、そのままでいた。

先生の上下する胸や、小さな呼吸に気を取られてしまって、大好きなドラマがあまり頭に入らない。

自分の鼓動がいつもより速くて、余計に私を落ち着かせてくれなかった。