また小説を書き始めた。そのきっかけは、別れた彼女に向けて書いたもの。

恋愛小説ということは、二人の思い出を書き綴ったものなのだろうか。

書きたくなるようなことがあったのかな。

凛翔先生は、彼女には小説に出てくる男性のような優しい目線で見つめるのかな。

思い出をツンツンと棒でつついてしまったみたい。変な気持ちになったから、パタンと閉じて、本を戻した。

「箱崎さん」

後ろから声をかけられた。先生だった。黒のMA-1にネイビーのチェックのマフラーを一度巻いて前に流してる。グレーのセーターに、黒のスラックスとブーツ。当たり前だけどスーツじゃないから、プライベートで会っているのだと自覚する。

「匂坂先生」

「何か買おうとしてた?」

「いえ。趣味の徘徊です」

「徘徊って」

「書店で、本を探すのが好きなんです。えっと、先生のご自宅は近いんですか?」

「ああ、うん。車ですぐ」

「えっ?あっ、車ですか」

「嫌だった?」

「あっ、嫌というか」

車内に二人だけという空間を想像すると、正直少し緊張する。それが伝わったのか、

「余計な話をすると、面倒くさくなりそうだから、行くよ」と、先生は私の手をとった。