「あ、いえ。別に」

「何着て行こうとか、今、独り言呟いてたけど、デートのお誘いでもあったの?」

「ま、まさか。違います」

「ははっ。この仕事してるとさ、なかなか出会いないからね。学生時代のとき付き合っていた男とは別れるなって言われるくらい。もしデートのお誘いがあったら、とりあえず行きなよ。行き遅れるよ」

そういう沙弥子さんの薬指には指輪がはめられている。なんと高校時代からの彼と付き合っているというから驚きだ。

付き合ったり、別れたときもあったみたいで、もう恋とか愛とか言うより、家族というか、いや脂肪の一部みたいだという。増えたり減ったり、その割合はそのときによる。そういう愛情だと。

「いえ。匂坂先生と打ち合わせをするときに、できるだけ印象良く見てもらいたいので、どういう服がいいのかなって思っただけです」

ラフな服装しか見られていないし、こういう業界にいるのだから、それっぽくいたいなと初めて思った。サヤコさんは含み笑いをする。

「デートくらい、意識してるね」と。

「え?違いますよ。わたしはあくまでも、匂坂先生の顔の公表に向けてですね……」

「ほら、勉強したした」と私に、はっぱをかける。

「だってセンスないんですもん」

「いや箱崎さんってさ、センスないわけじゃないと思うよ」

「えー?そうですか?」

「なんか形だけって感じするんだよね。もともとこういう系の服、好きじゃないんでしょ?だから買ってみるけど、無難にまとめて着てるだけみたいな。着る前から諦めてる感じ」