続けて「手伝ってほしいことがあるんだ」と、先生は言った。
家に来てほしいという誘いに、私が驚いた顔をするとまた笑われたけど、先生は本気だったみたいで、少し考えた。
だけど先生の弱み及び信頼を得る為なら、少しでも近づいておいたほうがいいと思い、承諾した。
良く考えると、中学生のあの頃、先生と部屋で二人きりという空間は当たり前だった。
だからこの状況だって、意識することなんてないんだと冷静になった。だって、先生は私を女として見たことなんてなかったのだから。
異性を意識したような素振りで、触れることもなかった。
私の好きな場所が知りたいと訊かれたので、本屋と答えると、先生の最寄の駅ビルの本屋で待ち合わせをすることになった。
なんかそれって、デートみたい。って、何を考えてる。
これも仕事で、先生にとって私の観察の一部に過ぎないだけだ。
「さっきからどうしたの?」と言ったのは、沙弥子さんだった。
翌日のお昼後、二人で展示会に来ていた。大人のフェミニンスイートを詰め込んだ人気ブランドだ。
季節は冬なのに、もう春服か。柔らかなパステルカラーやレースの素材が目に明るく飛び込んでくる。
咲く時期を間違えた桜やマーガレット、春の花を見ているみたいだ。



