「ちなみに曖昧な関係というと?」

「うーん。例えば、お互い好きなのは薄々気づいてるのに、言い出せなくなってしまってる友達、会社の同僚……それか担当している小説家とか」

「えっ……?」

「なんで動揺してるの?」意地悪く笑う。

「し……してませんよ。あっ、でもあれですよね。付き合う前のもしかしたら両思いかなって思えるときって、片思いしてていちばんわくわくしますよね。それが実る話なら余計に幸せいっぱいな気分になりそうだし」と、明るく言ってから、ハッとする。

私にとって、付き合う前の曖昧な時間をくれたと思えるのは先生だけだったから。

しかも、それは、私の只の勘違いで……。ああ、また思い出してくる。考えないようにしたいのに。

「……って、友達が力説してましたので、そういうの女子は好きなんです」

自分のことではないと、今更取り繕っても遅いのに、一言付け足すと、「そういう恋してきたんだ?」と微笑む。

「ええ」と、自信満々に返事だけはした。

私の初彼は高一の春で、周りに持ち上げられて付き合ってしまったら、手を繋いだだけでダメだった。実るまでのわくわくなんてなかった。

挙句の果てに、そのときの私の拒否顔がひどかったらしく、即刻別れ話をされた後、知らないうちに潔癖症呼ばわりされ、他の男子からも距離を置かれていたことを知るのは、卒業間近の話だった。

「箱崎さんはバレンタインの思い出って何かある?」

口をつけたレモンティーを噴き出しそうになりこらえた。