「すっ……すみませんでした」

撮影スタジオに到着すると同時に頭を下げた。走ってきたせいで、息があがる。

「おっ、ごっくろう」と明るい返事をしたのは先輩社員の真野沙弥子(マノサヤコ)さん。撮影はもう始まっていた。

私は大学卒業後、ボンドワークスという出版社に就職した。ファッション情報誌や写真集、文芸書等を出版している会社で、私が配属されたのは女性ファッション情報誌Grantの編集部。

なりたい自分になる、叶えるがコンセプトで、フェミニンなファッションだけではなく、メイク、恋愛やダイエット、マナーなど20代から30代の女性が気になる情報を掲載している。

入社してようやく七ヶ月という胸に初心者マークがついてもおかしくない位の新人で、雑務作業を毎日こなしている。

最近ようやく読者ページの編集作業を手伝わせてもらえるようになったけど、小さなミスは、毎日欠かさず。

ちなみに今日は肉NGのタレントさんの撮影だというのに、ケータリングのお弁当に肉が入っているのを発注してしまうという凡ミス。

それに気付いたのは沙弥子さんで、すぐにここの近くにある無農薬とヘルシーさが売りで七時から営業しているお店を教えられ、どうにか間に合った。

さっきは注文したそれを大急ぎで取りに行ったところだった。

「本当にすみませんでした。沙弥子さんいなかったら、私……」

「いいから。ていうか汗すごいよ。鏡見てきなよ」と、笑いながら言われた。