驚いていると、先生は呆れたように、
「お前以外、誰がいるんだよ」
「……」
「まあ、今は仕事が楽しそうだから、まだ先にと言われそうだけどね」
「それは……いや、あるような、ないような、確かに結婚って、まだイメージ湧かないです」
「まあ長い目で待ってるよ」
「うん」
先生は、手を差し述べるから、繋いだ。
「行くか」と立ち上がる。
冬の寒さが嫌いだった。切ない思い出ばかり浮かび上がらせ、寂しさを強調させるものだったから。
だけど、その先にこんな温かい気持ちが待っていたのなら、きっと必要だった時間に違いない。
今、ようやく気づいて一歩踏み出した。
夕焼けが溶けて、町をオレンジで包み込む。
子供のはしゃぐ声、鳥が鳴く。横切っていく猫、伸びた自動販売機の影、すれ違う人はみんな幸せそうに見えた。