「え?」
「ああ、ごめん。変な意味でとらないでほしい。そうだな。観察させてほしいってことかな」
「……観察? 人を植物みたいに言わないでください」
「言い方が悪かったら謝るよ。今日、君に会ってみて、次の話に箱崎さんみたいな子を書いてみたくなったんだ。だから、もっと見てみたくなった」
「なっ……何言ってるんですか! 私を小説に書いて面白いわけないじゃないですか!」
「そういう言い方は、僕が書く小説はつまらないって言われてるみたいに感じるけど」
苦笑する。
「そういう意味じゃないです。だって、なんで、私ですか?」
「話してたら、物語が頭に浮かんだんだから」
「……え」
「もしかしたら、知り合いに似てるからかな」と、言った。
もしかして、先生はシカトした私を面白おかしく小説に書こうとしているのかもしれない。
再会した途端に、知らない振りや嘘を吐いて、見栄を張った私は、先生から見たら滑稽すぎるネタだ。
「それだけじゃ、理由にならない?」
「なりません。無理です。私の物語なんて誰も読みたいと思いませんよ」
「なんで?」
「なんでって、私みたいに平凡で仕事だって」と言いかけて、止めた。
仕事が出来なくて容量の悪いヒロインの話なんか、と言いそうになったからだ。先生に、そんな胸の内を吐露する必要はない。
「箱崎さん、僕の小説読んだことある?」
そこで質問の意図がなんとなくわかったから答えた。



