「ああいう日もありますけど、毎日ではありませんから」と、笑顔を張り付け、話を戻す。

「実は、私の大学の友達でハモメに勤めてる子がいるんです」

「そうなんだ。どこの部署の子?」

「先生の勤めてる本社じゃなくて、茨城のほうなんですけど」

「ああ。じゃあ生産本部のほうか」と、呟いた。

「なので、たぶんご存じないと思います。部署が違えば会う機会もないですよね?本間っていうんですけど」

「いや、たまに行くこともあるけど、名前は聞いたことがないかな。あれ?部署と言えば、そういえば箱崎さんって、文芸書の部署で働いてるんじゃなかったっけ」と、思い出した様に先生は言った。

その言葉で気が付いた。

私、文芸書を作ってるなんて大見得をきったくせに、ファッション誌の部署にいる。嘘だって、完全にバレてしまってる。

穴があったら入りたいどころか埋まりたいとはこのことだ。

作家さんに会うのも、目の前にいる匂坂先生が初めてだというのに。

またもや笑顔がひきつる。

「そんなこと話しましたっけ」

でもと思う。私は今、先生の知ってる箱崎なつめとは別人という先生の物語に身を投じているんだから、どうでもいいんだ。

女性誌の編集部にいても、問題ない。しらをきった。

「勘違い?」

「ええ」

それにしても、ちくちくと人が気にするようなことを平然と言ってくるから居心地が悪かった。