少しの無言が気まずくて、質問を投げ掛ける。

「あの、先生のペンネームの由来ってなんですか?」

「由来?なんだと思う?」

「わからないから、聞いてるんですけど」

「本名が同じ漢字でサギサカ」

そういうと、私を試すようにみるから表情を崩さないようにした。

「そう読める?」

「読めないですね」

「前にね、名前が読みにくいと言われたことがあったから、誰でも読めるほうがいいかと思って。
下の名前も本名の漢字の偏とかを並べ替えたくらいで、ひねりも何もないよ。
まあ、長く書いてきたいから、自分が年をとっても似合う名前にはしたかったくらいかな」

「……そうなんですね」

「箱崎さんの名前の由来はあるの?なつめって」

先生はここでも他人行儀に私の名前を呼ぶ。絶対、気づいてるのに。

「聞いたことないです」

そっちがその気なら、私たちは、本当に初めましてだということにして付き合っていこうと腹を決めて、話題を変えた。

「ハモメ食品に、お勤めって伺いましたけど、お仕事は忙しいですか?」

「ん?」と、言ったあと思い出し笑いをするように噴き出した。

「匂坂先生?」

「あ、ごめん。忙しいといっても、箱崎さんほどじゃないよ。大変そうだよね。力仕事もあるんだね」

優しく微笑むけど、その言葉には嫌みが込められているってすぐ気がついた。

日中、大量の服を抱えた私を見て笑っていたのだから。