先生とご飯なんて、どこを見て食べていいかわからないと思った。

待ち合わせをしたのは、駅前で、私を見つけるとすぐに「何食べたい?」と訊かれ、「パスタか和食がいいです。先生はいかがですか?」と言うと「極端だね。僕はどちらでもいいけど」と素っ気なく言った。

通りを少し歩いたところだった。落ち着いた佇まいの京風の創作和食屋を見つけて、そこにした。

「飲む?」と先生はメニューを眺めて訊いた。お酒の意味だと理解して、「明日も仕事があるので」とかたくなに断った。

先生も無理強いをすることもなく、生湯葉の京野菜のせいろ蒸しやおすすめだというおでん、炙り牛の握りとかを頼んでいく。

どういうつもりなんだろうと思う。まだあの原稿は先生の手の中にある。じっと見つめてしまうのは、椅子の上にある茶封筒。

「そんなに見つめなくてもちゃんと渡すよ」

意地悪く笑うから、「もしかしてわざとだったんですか?」とそんなわけないのに、冗談で返した。

「そうだよ」

先生はあっさりそう言った。

「えっ?」

なんの為ですか?と、そんなことを言われたら返したくなる質問を私は飲み込んで、「人が悪いですね」と笑いながら水の入ったグラスを引き寄せた。