再度電話とメールを送ってみたけど、匂坂先生から何の返信もない。どうしよう。
会社の前で待ち伏せすれば会えるだろうか。悶々としていると夕方、先生から、メールの返信があった。
『原稿を渡し忘れてしまい、申し訳ありませんでした。お渡ししたいのですが、お時間はいつがよろしいでしょうか?』
『こちらこそ、申し訳ございませんでした。先生の都合がよろしいときにこちらから伺います』
そこでぷつりとメールが途切れてしまった。あれ?と、不安になる。その瞬間、電話が鳴った。
「Grant編集部、箱崎です」
「匂坂です」と言ったのは、先生の声。
「あ、匂坂先生。お電話ですみません」
「原稿ほしい?」
「え?」
「原稿」
「ほ……ほしいに決まってるじゃないですか」
「今日、何時に仕事終わる?」
「えっとたぶん八時くらいには」
「原稿渡してもいいけど、条件あるんだ」
「は?」
「まあとりあえず、今日、ご飯に付き合うこと」
「え」
「仕事なら彼氏も怒らないでしょ?」
「ま……まあ」と、頷いた。さっきの丁寧なメールの文章との落差が激しくてびっくりした。



