訳が分からないまま立ち尽くしていると、察したように、先生は「弟」と短く彼を紹介した。
「あ、弟さん」
そう言われれば、先生にどことなく雰囲気が似ているかもしれない。先生を少し小柄にして、やんちゃな男の子にしたような幼い雰囲気。
そこで我に返る。一応彼女なんだから、挨拶しないと。
「あ、初めまして。私、箱崎なつめと申します。あの先生と……あ、じゃないや」
いつものくせで、つい先生と言ってしまった。思えば、先生を先生としかまだ呼んでいなかった。彼女にしてはよそよそしすぎる。言い直そうとすると、
「担当さん」と先生はこれまた短く私を紹介する。
「そうなんです。Grantという雑誌で先生に今、連載小説を書いていただいてるんですけど、その担当をしているんです」と愛想良く答えてから、気づく。
担当さん?彼女じゃなくて、担当さん?あれ?私、彼女じゃなかったっけ?ここまで来て、まだ私の勘違いが続いているのかと不安になり、先生を見た。
「そうなんだ。弟の遥太です。兄貴がお世話になってます」
先生は、「お前は、黙ってろ。それより、箱崎さん、ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」と、私に声をかけた。



