私は頷いて、「忙しいのに、すみませんでした」と、謝るしか出来なかった。本当になんだか情けなくて、恥ずかしかった。
早くこの場を立ち去りたい。今すぐ、消えてなくなりたい。
涙が目の淵で揺れる。だけど、先生の前で絶対泣きたくない。ただでさえ、次会ったら気まずいのに、泣いたらもっと気まずくなる。
「失礼しました」
先生は、帰ろうとした私の腕を取ると、そのまま片手で抱きくるんだ。
「鈍いのは、わざと?」
「え? 鈍い」
「それとも言わせたいの?」
「な……なんのことですか?」
「こうされてて分からない?」と、耳元で囁くように言った。
もしかしてと期待したくなる。怖いのに、もしかして――。



