「頭にきたよ。普通に。
だから出版社でまた会ったときは、大人げないけど少しからかってやろうと思った。
そしたら強情なところも、変わってなくて、なぜか俺に合わせて知らないふりを突き通してくるし。
本当に可愛くないと思った。
一瞬、本当に記憶喪失にでもなったのかと思ってもみたけど、やっぱりそう思えないし。
不毛な演技をお互いどこまでやり続ければいいんだろうって、引き返すタイミングも分からなくなった。
その時は、何を思ってなつめが俺を忘れたかったのか、知らなかったし。
けど、そうまでして、なかった男にしたかったんだなっていう事実だけは伝わってきて、嫌な女に成長したなって思ってたよ」

失恋してるんだと、少しずつ少しずつ悲しみが血の中にでも溶け込んだみたいに、全身に行き渡り、声にならなかった。

今の私は、先生の言葉を受け止めるくらいしか、出来ない。

「私、最低ですね」

「うん。俺から見たら、すごい最低だった」

泣きたくなるのを耐えて立ち上がり、

「ごめんなさい。私、ちゃんと先生に訊けなかったから」

と、頭を下げた。

「いいよ。終わったことだし。大事なことは過去にないから。今はもう気にしてない」

その一言で、赦してもらえたんだと思う。それはもう終わったことだからだ。先生の中で消化できてることだから、簡単に終わらせられるということだ。

振られてる。なんの希望もなかったんだ。ゆっくり、ゆっくり理解したくないことが伝わってくる。

「言いたいことはそれだけ?」と、先生は素っ気なく訊いた。