考えると、段々自分に呆れてきた。

花愛ちゃんに、怖いことって、やってみるとそうでもなかったなんて言って、私は今、怖さを前に立ち止まっているのだから。

私は、この恋心を美術館にでも飾って眺めてでもいるのかな。

立派な額縁に納めて、立ち入り禁止とでも書いたロープで囲んで入れないようにして、いちばん目立つように描いた傷を見ては、痛そうだから、やめようって思えるようにして。

ついには、先生を諦める理由づけとか、もっともらしい言葉のカバーをかけて、離れた。

だけど、本当は、結局その絵の前で、ずっと立ち尽くしたままだ。

「ごめん。先に帰るね」

「何かありました?」と、花愛ちゃんが驚いた顔をするけど、「うん。花愛ちゃんの真似してみたくて」とだけ、伝えた。

花愛ちゃんは「もしかして」と察したような含み笑いをする。

頷くと、「頑張って下さいね」と他意のない言葉をかけてくれた。

店を出て、先生にメールをした。

『先生、今、店を出たのですが、話したいことがあるんです』

『どうしたの?』

『今、どこにいますか?』

『打ち合わせで使ってるカフェにいたよ。そろそろ帰ろうとしてたとこだけど、来るの?』

『はい、会いたいです』と送ったら、充電がなくなってしまった。