不機嫌な恋なら、先生と


来るの早くないか。

いや、問題はそこじゃない。

どういうこと?と、来客用のカップにお湯を注ぎ温めている間考えた。

だけど、どうあっても凛翔先生が、今日来社するといった作家の先生、匂坂羊示ということだろう。

だって、匂坂先生って呼んでたし。そう呼ばれるにはそれしか思い当たらなくて、頭を抱えたくなった。

ミーティングルームに行くと、凛翔先生はくだけた様子で沙弥子さんと談笑しているように見えた。コーヒーを彼の前に置くと、私に視線を投げたけど、あわせないように逸らした。

この前のこと、謝罪したほうがいいのか、知らない振りをした方がいいのかさっきからずっと考えていたけど、答えがまだでていない。

「じゃあ改めて、新しい担当の箱崎です」と沙弥子さんは私を紹介した。

先生は立ち上がりテーブルの横で、「初めまして。匂坂(コウサカ)です」と慣れた動作で名刺を差し出す。

品のある笑い方で、初めて先生が家に来た時のことを思い出させる。そう初対面みたいな笑い方だった。

「頂戴します。は……箱崎です」と、両手で受け取り、わたわたともたつきながら、名刺を差し出した。