翌日。匂坂先生が来社する時間が近づく。
今日は、人気モデルの連載記事の撮影とコメント取り、それが終わってから、ブツ撮りという流れだった。
沙弥子さんはライターさんとの打ち合わせ中で、私は撮影が終わった隣接する自社スタジオの掃除と編集者が持参した服を編集部に戻していた。
ブツ撮りは『エディターの今、お気に入りのアイテム』ということで、各々アウターや靴まで何点も持ってきたものだから、けっこうな量。冬服だから厚みもある。
「ごめん、それだけ持っていけそう?」
「はい」と、元気よく返事をして、最後の服の山を抱える。服って枚数を抱えるとこんなに重くなるんだもんな。
エレベーターで上がり、よろよろとした足取りで歩く。休憩と力を抜くと、へっぴり腰になる。
「箱崎さん」名前を呼ばれ、振り返る。沙弥子さんだ。
「あ」と、心臓が大きくはねた。
沙弥子さんの隣には、長身で仕立てのいいスーツを着た男性。
その顔には見覚えがあって、数日前に会った凛翔先生そのものだった。
どうしてと考える間も、挨拶をする余裕もなく「匂坂先生いらしたから、コーヒーお願いね」と沙弥子さんは、目の前のドアを開けた。
彼女のあとに着いて歩く先生は、視線を私に投げると口元を軽く抑え、笑ったみたいに見えた。
私は依然、へっぴり腰のまま固まっていた。



