不機嫌な恋なら、先生と


『彼女は秘密の恋をしている』

連載小説のタイトルに目がとまる。

一号完結の物語で、秘めた恋をテーマとしていて書かれていて、毎回読者からのこういう話が読みたいというリクエストを踏まえて打ち合わせをしながら、小説の方向性を決めている。

私が印象に残ったのは、七月号だ。

蚊取り線香とうちわと幼馴染の男女が出てくる。

社会人になり、地元を離れた二人が帰省して、再会する。縁側に座って話すやりとりが描かれている。

成長してるのに変わらない、だから最後まで一言も好きということは書かれてないのに、二人が相手を思う気持ちは伝わってきて、切なくてちょっと涙ぐんだ。

この小説は静と動といったら静で、その静の中に人間の割りきれない感情といった激しい動がひそかに潜んでいる。

だけどそれは、重苦しくなく温かい気持ちになれるものだ。

たぶん時折見える男性目線の優しさのせいかもしれない。

読者からの支持が高いのもわかるんだ。数分で読み切れる癒しがある。

沙弥子さんは、仕事で頑張る女子がキュンというより、ほっと息を吐ける物語をと提案したらしい。

確かに仕事や時間に追われる中で、安らぎがほしいときはある。

寒々しい雪の降る夜を暖かな部屋の中で過ごす、読者を私に置き換えてもそういう安心感がある。

そんな優しい小説だと思う。

どんな人が書いているのだろう。想像するだけで、胸をドキドキとさせる。日常を思いきり首を持ち上げて見ているくらい期待させた。