不機嫌な恋なら、先生と


吸い込まれるように目に留まってしまった。書きかけの文章の中にある、『まどか』という文字。

きっと、こういうことだったのかと分かると、胸がすいた。

「実はさっき先生を呼びに寝室に行ったんですけど、熟睡してて起こさなかったんです。そしたら、寝言をいったんです。まどかって。誰のことかなと思ったら小説のキャラの名前だったんですね」

「え?」と、先生はパソコンに目を向けてから、少しばつが悪そうに「寝言で言うくらい、追い詰められてたんだな」と苦笑した。

「この前、言ってましたもんね。夢に小説の話が出てくるって。あれ、本当だったんですね」

「ああ。そんなことも言ったっけ」

「……先生、あのとき」

訊いていいか迷った。あのときの先生は言うのを躊躇った気もしなくなかったから。でもこのタイミングじゃないともう訊けないかもしれない。

「小説を書くことが好きなんですねって言ったら、たまにわからなくなるって言ってましたよね。
なんか気になって。
実はスランプとか、あったりしたんですか?」

そういうと、何かを思い出すように遠くを見る。しばらくして口を開いた。

「うん。スランプではないけど、考えてしまうことがあるかな。人間ぽくない自分が人間を表現できるかって」

「えっ?人間ぽくないって?」

言ってることが分からなくて、問い返す。