マンションのエントランスにつき、インターホンを押すと先生が出た。名前を名乗ることなく扉は開いた。先生の家の扉もそうで、無言で迎え入れるものだから、一瞬戸惑ってしまった。

「だ……大丈夫ですか?」

「大丈夫に見える?」

前髪をおろして、スウェットに眼鏡。いつものシャキッとした感じは見受けられない。

「見えません……あの、熱は何度くらいあるんですか?」

「今は計ってない。昼に38度はあったけど、薬飲んで一気に平熱。かと思ったら、また寒気してきたから、上がってる気がする」

「病院は?」

「今日ようやく行けたよ。医者に白血球の数がすごいとか言われた。炎症を起こしてるかもって、なんか検査に出したから原因もよくわかんない。抗生物質とか漢方とか色々処方されたよ」と、廊下を歩いて行った。

あ、上がっていいのかな?判断に迷ったけど、三和土に靴を揃えて上がった。

一度立ち止まって、振り返り「今日はなんの目的で?」と、私を見た。

「ただのお見舞いです」

「良かった。原稿煽られたら、どうしようかと思ったよ」

「そんな心無いことしません。とりあえず、寝てて下さい」と、寝室に押し込んだ。ベッドに横になると、はぁと深い息を吐くから、本当は苦しかったのかと思う。