「そうか」

「もし彼女が来なかったら、多くの人に迷惑がかかります。
けど、それだけだと思えば、それだけですよね。
ダメなら、他にもっと面白い企画ができるかもしれないし。
考え方を変えれば、問題なんて何もない気もしてきました」

先生は含み笑いをしていた。

「何笑ってるんですか?」

「自分に言い聞かせてるみたいだから」

本当は不安なんだろうと言われているみたいだった。そうかもしれない。何も問題じゃないと思えたら、生きるってどれだけ楽なんだろうと思う。

私が仕事ができないのも、花愛ちゃんの痣も、この企画がなくなっても、問題じゃないと思えたら。

そう思えないから、あがくし、助けがほしいときがある。

先生からもらった本を、辛いときに何度も読み返していたくらいだ。言葉だって覚えてるし、たまにおまじないみたいに心で繰り返すこともある。

隣に並んで先生の横顔を盗み見た。本当は、言いたくなった言葉があるのに、ぐっと飲みこんだ。

先生は、私の方を見て、柔らかい顔つきになる。

振り返ると、花愛ちゃんが立っていた。