「編集者を目指したきっかけは?」
「きっかけは……」
先生に昔、言ったこと、覚えていないかな。先生は、覚えていないかな。
言うか言わないか迷って、「昔から本が好きだったので、人と本を繋ぐ仕事がしたいと自然に思っていました」と、先生に言ったことをもう一度伝えた。
だけど、そこで、違うって言いたくなって、はっきり思い出す。
私が編集者になりたかったきっかけを。
私の嘘つきの夢を本当にしたのは、先生だったって。
先生から誕生日プレゼントでもらったゴマアザラシが表紙の本。
もらってすぐ読めなかったのには、理由があったんだ。
あのとき、学校に行くのが嫌で仕方なかった。
でもそんなこと誰にも言えなかった。
小学校のときの友達や両親、あの時好きだった凛翔先生にも言えなかった。
その代わり、自分ができる範囲で環境を変えてみようと、希望を見つけて毎日を悩まないように誤魔化していたんだ。
あと数ヶ月頑張れば、終わるのだからと。
あの本を開いてみたら、そんな私の心に寄り添ってくれるような言葉と写真がいっぱい並んでた。
1、2ページ読んだだけで、泣きそうになって、先生の前であのとき読めなくて、家に帰って読んだら大泣きした。声をあげて泣いた。
辛かったんだって受け入れた。
それから思ったんだ。
私もこんな風に人の心を動かせるような本を作りたいって。そして私みたいにそれを必要としている人に届けたいって。
人の心を動かせるのは人だと思う。だから、そういうステキな出会いを繋げたいと思ったんだ。
やっぱり、頑張りたい。ぎゅっと拳を強く握ると、行き交う人ごみの中、背の高い彼女の姿が目に留まった。



