「はあー」


五十嵐くんが深いため息をつく。


「本当、中村さんには敵わねー……」


五十嵐くんが小さな声で呟いて弱々しく微笑んだ。

そんなこと出来るわけもないくせに……抱きしめたいなんて、思っちゃうのはなんでだろう。


「俺、今から半分くらい独り言いうから軽く聞き流しといてくれる?」


こっちに一度、向けてから床に視線を落とす。

私はもちろん、首を縦に降る。

話してくれる程度には五十嵐くんに信頼されてるって思ってみてもいいのかな?


私が話すわけじゃないのに緊張してきた。
深呼吸して、胸に手を当てる。

と、同時に五十嵐くんの呼吸する音が聞こえた。



「さっきのやつな、俺の……元カノなんだ」


小さな声でいつもよりも弱々しい声。


やっぱり、そうなんだ。

わかってたはずなのに、はっきりと口にされるとなぜだかどきりとして、鼓動が一段と早くなる。


どうしよう、五十嵐くんの方、見れない。


「中3のときに同じクラスになって、それからすぐに亜美から告白された。中3で恋愛もしたことなかった俺は、大して亜美のこと知りもしないくせについ舞い上がって即オッケー」


ボソボソと紡がれていく言葉。

ふっと力なく笑う五十嵐くんの息が聞こえる。