辺りは人の話し声もなく静かで
耳元を5月の風がすり抜けていく。



裏庭はめったに人も来ない、
校内唯一の場所かもしれない。



気まずい空気に落ち着かない私を余所に、
はっきりとした口調で木下さんが口を開いた。


「私、将人くんが好きなんです。
先輩が居ても諦めたくありません。」




胸を張って堂々と私を見据える。


その姿にただ
圧倒されて息を飲んだ。



「この前告白しました。

断られたけど諦めません!

先輩より私の方がずっと
将人くんを好きだって
自信があります!

絶対負けませんから!」


きっぱりと言い放った彼女の目には
涙が溜まっているのが見えた。


本当に…

真剣に将人の事が好きなんだって

全身から伝わってくる。



そしてまた少しの沈黙のあと

私に頭を下げると走り去っていった。



「……はぁ…」



彼女の一生懸命な姿を見ても
何も言えなくて。


その場にただ
立ち尽くすことしか出来なかった。



「…ごめん、なさい」



あの子の気持ちより....

私の気持ちの方が全然弱いよ....






好きってどういう気持ちだった?




将人が好きなのか、

陽一が好きなのか



もう自分の気持ちが分からない。