先程まで私を支配していた尿意はどこへやら。体内で逆流し、涙になったのか(そんなわけないか)私の両目からポロポロとこぼれ落ちた。
「佐原さん…泣くなよ」
羽田さんが私の肩を優しく抱いた。
優しい優しい36歳の羽田さん。
私が高校生聡太君に夢中だって話をしても、決して馬鹿にせず呆れもせず、聞いてくれて。
「羽田さあん、う、う、う、ズビズビ…」
あ、あ、なんでこんなに涙が出るのかな、酔いのせいかな…
ついでに鼻水まで出てきたよ…
「ハイ、ポケットティッシュ」
気付いたら羽田さんの顔面がすぐ近くにいた。
「ありがとう…羽田さあん、ズビー!」
一応、オトコの人の前だというのに、私は豪快にハナをかんだ。
「…きあおう?」
蚊の鳴くようなちっさい声で羽田さんが囁いた。えっ、聴力検査かい?
「…ズビズビズビ、すみませんよく聞こえないんですけど、ズビーもう一度言って頂けますか?」
丸めたティシュを鼻にグイグイ押し当てながら、私は訊いた。
「…佐原さん、結婚を前提に俺と付き合おう!」
羽田さんが正座をして頭を下げた。

