「じゃ」


聡太くんが、さっと身軽に降りてしまうところは、初めの時から変わらない。あれだけ話、盛り上がったのに。


私は、聡太君の華奢な背中を見えなくなるまで目で追う。


私がもう少し若かったらな…
コクるタイミング、図っちゃったりするんだけどな。


そんな私の気持ちもつゆ知らず、聡太君は朝の陽射しの中に融けていってしまう。私の知らない聡太君の世界へ。


駅の向こう側には、ハイキングにぴったりな小さな山があって、遠くに海を眺められる展望台と菜の花畑で有名な公園がある。

聡太くんの通う高校は、そこに行く坂道の途中にあった。


電車を待つ駅のホームで、その緑豊かな景色を眺めているうち、私はなぜだか切なくなる。


聡太君には、初夏が似合う、
それは、若木が伸びる時季だから。


校門をくぐる頃には、私のことなんて忘れて、制服の同級生達と青春するんだろうな…


「もう一度、和香子、と呼ぶ声が聴きたいな…」


そう呟いた時、電車がホームに入ってきた。
13両編成の東京行きだ。
ガタンガタンという大きくて規則的な音とともに、鉄の臭いと暑い空気が舞い上がる。


罰ゲームみたい……


少し埃っぽい風をモロに受けて、私は顔を背けた。