「なんかさ、このところ勉強が手につかなくってさ…」


聡太君が独り言みたいに語り出した。

どうして?と訊く代わりに私は首を傾げてみせ、ベッドの上に転がっていたクマの縫いぐるみ『ルル』を自分の膝の上に乗せた。

茶色い毛のルルは7歳の時、両親から誕生日プレゼントにもらった私の妹的な存在。20年近くが経過して、ボロボロになっているのに捨てられない。


「…なんかこう心臓の辺りがムヤムヤするかんじがしてさ。
こんなんじゃダメだ、集中しなきゃって思うんだけど、忘れ物したみたいな気がしてさ。スッキリしないんだ…」


「…体調悪いの?」

受験勉強のストレスかな?

聡太君はゆっくりと首を振った。


「そんなんじゃないよ。至って健康体…入院してるおばあちゃんのことは気になるけど、病院から毎日元気だよってメールくれるし…

でも、今日、和香子と別れてから、はっきりと思ったんだ。これは…自分の言いたいことを隠しているからだって!」


聡太君の語尾が強くなったことに私は驚き、彼の顔を覗き込んだ。