「お前、なんか知らねえけど、いつもいい匂いさせやがって、俺を誘ってるんだろ?おれがさみしい独身だって知っててよ?」


「……」


この人、頭おかしい……


身の危険を感じて私は立ち上がった。


逃げなくちゃ…

「あ、あのすみません、私、今日は帰ります!」


バッグを肩に掛け、くるりと身を翻した時。


「おい!待ちやがれ!」


すっと前に回り込まれて、私は馬場友と向かい合うような格好になった。

ギラギラと異様に目を光らせ、馬場友は肉食獣が獲物を捉えたみたいに私をジリジリと部屋の奥へ追い詰めた。


「お前よお、俺が何も感じてねえと思ってたか?
お前見てるとムラムラしちまうんだよ!

今日だって、ネグリジェみたいな服着やがって、背中のブラジャーの紐、スケスケ丸分かりじゃねえか!

俺はな、48年間、風俗だけで我慢してきたんだぞ?お預けされて俺がどんだけ辛いかわかんねえだろ?

もう我慢出来ねえ!会社なんぞ、クビになっても構わん!」


「あ……」


後ずさりしているうちに、どん、と私の背中に硬いものに触れた。
壁だ。もうこれ以上逃げられない。