Share Heart

私は後ろ手でそっとドアを閉める。

どこにいればいいのかわからなくて、そのまま立ち尽くした。

神無月は変わらず、ベッドの上にあぐらをかき、小説の1ページをめくった。

「あの…綾瀬花音です…改めてよろしくお願いします!」

私は110度くらい頭を下げた。

そして、頭を上げると髪の毛が大量に顔にかかった。

手でバサバサと振り払い、神無月の反応を見た。

すると、小説をパンと閉じ、私を見た。

「緊張する?男の部屋って。」

「えっ…」

神無月が優しく聞いてくることに少し驚いた。

さっきまで無表情だったのに…

こんな顔もするんだ…

「花音って女子って感じするよね。」

私はいきなり呼び捨てにされて戸惑った。

でも、それは神無月にとっては普通のことらしく、そのまま続けた。

「ほら、陽南はあんなんだからさ。話してても女子力ないなーって思うんだよね…でも、花音はほわほわしてるよね。」

「…はー…」

なんて反応すればいいのか困った。

女子力を褒められたことなんてない。

女子力を褒められても大して嬉しくないし。

だって女子だもん。

そんな思いも知らず、神無月は一方的に言う。

「俺のことは何でも好きなように呼んでくれればいいから。あーでも、花音には悠紀さんって呼ばれたいから悠紀さんで。」

「あっ、はいっ!了解ですっ!」

本当に一方的だな…

でも、これで神無月への挨拶は終わった。

私は失礼しました、と言い部屋の外へ出た。

そっとドアを閉めるとなぜかどっと疲れがやってきて、大きなため息をついてしまった。

「大丈夫?」

そう聞いてきたのはリビングにいた望田だった。

マグカップを持っているから、何かが注いであるのだろう。

「悠紀の部屋って疲れるよね、あの白さがさ。」

「あっ…うん。」

はるちゃんは悠紀さんのこと呼び捨てなんだ…

そのことになぜか心が動いた。

「まぁでも悠紀が終わればあとは楽だよ!昴もいいやつだったし。がんばってね。」

私はコクンとうなずき、望田は自分の部屋へと戻った。

なぜかまだ望田の言った“悠紀”が耳に残った。

そんな複雑な思いの中、倉谷の部屋をノックした。