「ここが我が家なんですが……」


閑静な住宅街の小さな白い壁の二階建て。
家の周りには趣味の園芸。
赤いポストが目印の大野家。



「まさか、貴女が大野さんだったとは……」


か細い声でスバルに尋ねる天使。
ああ、なんて麗しい声なんだろう。
その声で私の名を呼ぶなんて……
ああ、やめておくれ。そんな……ああ…



「スバルさん?中に入らないんですか?」



玄関を開けてスバルを待つ美少女。
その立ち姿は聖母マリア。



「ああ、そうだね。お茶でも……」


そうして、私たちは家の中に入る。
一階はまず玄関を抜けると
リビングにダイニングキッチン。
大きめソファの前にテレビ。
お風呂と洗面所。トイレ。

二階がそれぞれの部屋になっているが……。



「…ところで、ユキちゃん?」

スバルはキッチンから紅茶とクッキーを運んでダイニングテーブルに座るユキを見る。



「なんですか?」



「えーと、歳はいくつかな?」



…そうなのだ。ユキさん、どうみても女子高生なのだ。
流石に未成年を住まわせるわけには…。
いやしかしコスプレかも……。



「17です。高校3年生。」



ちがったーー。現役バリバリの高校生様々でいらっしゃった。



「……そっか。えっと、募集は何処で見たのかな?」



「兄がスバルさんと同じ大学で。兄から聞きました。」



そうなのだ。募集のチラシは大学キャンパスの掲示板に貼ったので、
てっきり大学生が来ると思ったのだが……。



「……でも、なんで、高校生がわざわざルームシェアなんて?」




「……それは……家出したくて」



「そうか、そうか。家出か……えっ、家出!!」



「そうです。」




「…いや、ダメでしょ!!ご両親は?
心配してるでしょ?」



「あっ、大丈夫です。両親は海外で、
お兄ちゃんと二人暮らしだったんです。
兄には家出て此処に住むって言ってあるんで……」




そうかそうか。なら、安心、安心。



「なわけないでしょ!!
だめだよ。まだ未成年でしょ。
それにね、一緒に住むってことだって
タダじゃないんだよ!!
もちろん、部屋代も取るし、電気ガス水道代だって……」



「あっ、お金なら大丈夫です。好きに使っていいことになってるんで……。」


そう言いながら、バックから財布を取り出し、出したのは……ゴールドカード!?



「えっ、うそ、やだ?ホンモノ?」


唖然とするスバル。
対して紅茶を飲む落ち着きを持つユキ。


「大丈夫ですよ。現金もあるんで。」



「えっ、いや。もしや、ホンモノのお嬢様??」


「あー、私、有馬って言うんですけど…」


ありまーー!!
有馬といえばここら辺近所を治めるあの有馬家。
というか、お家にプールがある有馬御殿のことか?!
いやらしくベンツ何台も所有する有馬御殿か?!
世界的デザイナー 有馬 宗一郎の娘か!?



「えっと、その有馬のお嬢様が何故、ウチに?」



「いや、だから家出を…。」



「なんで家出なんか…?」



そうなのだ。有馬御殿は大野宅から徒歩10分。同じ町内会のメンバー同士だ。



「兄が……」


「お兄さんが……」


兄と言えばあの 有馬 夏央の事だ。
世界の有馬の息子の名を知らない者はいない。



「お兄ちゃんが……その……毎晩女の子を連れてきて…だから……」


「おんなーー!!」


スバルが驚いたのも無理がない。
なぜならあの有馬 夏央。
女ぎらいの堅物で有名なのだ。




……あの有馬くんが女遊び?信じられない……でも、こんなに可愛い天使キャリーちゃんが嘘つくなんて……うーん。



「その、私のこと、おいてくれませんか?」


可愛い顔で手を合わせ、涙目でスバルを見る美少女。
断れるわけないじゃんかっ?!