俺は知っていた。そう言えば裕也は燃える。やはり裕也は言った。「11点取っても0点で抑えてやるよ。」裕也は俺の作戦にまんまとはまった。しかし、裕也の気合は俺の予想を上回った。試合は八回まで0-0のまま動かず、投手戦となった。そして九回に試合が動いた。俺達は、スタミナの切れはじめた埼玉のエースを攻め、満塁とした。そしてバッターは裕也。裕也は同じ投手としてわかっていたんだろう。この場面で初球は置きにくると。裕也はその初球は思いきり振り抜いた。完璧に弾き返した打球はセンターの頭上を越えた。走者逸走のタイムリーツーベース。次は俺の打席。裕也をホームに帰すために俺は必死だった。裕也のヒットで動揺したのだろう。俺への初球も甘いコースに入って来た。俺は迷わず振った。ミートを重視した打球は、ライトスタンドまで伸びていった。一挙5点の猛攻だった。裕也は裏の埼玉打線を完全に封じ込めた。最後まで、あの俊足の一年生は登場しなかった。そして俺達の春の甲子園での全国制覇を成し遂げた。しかし本当の実力戦は夏だ。夏に甲子園に帰って来る事を俺は誓った。そして、あの埼玉の一年生との勝負をしに。