煙草の匂いが微かに鼻をくすぐる。
それはいつも、抱きしめられるとき、匂っていた。
いつのまにか安心さえするものだった。
抱き寄せられた腕の中は、心臓を激しく高鳴らせ、
……懐かしい感覚が広がった。
驚きよりも、この心地よさになにもかもどうでもよくなっていく――…。
『…あれは嘘、だ』
更に強い力で抱きしめられて、あたしは黙って聞いていた。
『どうしても、別れたかったんだ…』
その言葉に、あたしの心は傷付くはずなのに。
その声の切なさがそうさせなかった。
“別れたかった”のは、嫌だとかそういう“別れたかった”ではないんだと……鷹巳の心が言ってる気がした。
………小刻みに震えていた。
『チーム内の奴がさ、問題起こして捕まるって分かったとき、総長やめようって思った』
ポツポツと…、鷹巳は話し出した。