「な、何! ここは岩場の上に造られた城だぞ? 一体誰が囲むというのだ!」
「それが……ブリトン人らしく、歌を歌いながら迫ってきておるのです……」
「歌だと……?」
 そういえば、先ほどから何か聞こえていたなと思い耳をすますと、確かに低い声で歌うのが聞こえてきた。
『俺達ブリトン人は誇り高い
 自由と独立を愛す
 それを邪魔する奴らには容赦しねぇ
 勝手に領主を拉致する奴も許さねぇ
 俺達の誇りを踏みにじる奴は許さねぇ……』
 その物騒な歌詞に、オリヴィエ・ド・ブロワは青くなった。
「オリヴィエ、ジャン5世はまだ生きているのよね?」
 そんな時、母親のマルグリット・ド・パンティエーブルがか細い声でそう話しかけ、彼は我に返った。
「た、確かそのはずです……」
「早く解放しましょう!」
「母上……」
「ここで私達が暴徒共にやられてしまえば、笑い者になるだけよ! そうなる前に、ジャン5世を解放しましょう! ブルターニュなんて、又折を見て、取り戻せばよいのだから!」
「そうですね」
 オリヴィエはそう言って頷くと、傍に居た門番に言った。
「地下牢のジャン5世を開放せよ!」
「え? わ、わしがですか?」
「そうだ! 早く行かんか!」
「は、はい!」
 先ほどと同じく、転がるように奥に走って行く男を見ながら、オリヴィエはため息をついた。
「ブリトン人は結束が強いというに、その近くのわが領地の使用人ときたら、まったく使い物にならん! 地理的には近いというに、どうしてこんなに違うのだ!」
 そう言いながらも、彼はだからこそ密かにそのブルターニュを自分のものにしようと決意した。
 残念ながら、それが叶うことはなかったが。