よし、もうすぐ、家に着く。
早く帰ってしまおう。
「せんぱーい、ちょっと歩くのはやーい」
……何故かって?
そりゃあ、寒いからでしょう?うん、そうでしょう?
「せんぱーい、耳まで真っ赤でーす。」
……後ろがうるさい。
「せんぱーい。」
「あー、もう、うるさーい!!」
私は思わず立ち止まる。
家まで残り30メートル。
「ユズキせんぱーい、お顔が真っ赤でーす。」
ああ、完全に面白がってる。
やはり、気づかれたのが悪かった。
「寒いからよ!」
ふーん 何て言いながら、黒の傘が近づく。
「せんぱーい、今、誰もいませんよ?」
いくら年末だからといって
雪が降る夜にあえて外に出る者もいない。
「……だから何?」
「……キスしていいですか?」
「……いいわけないでしょ。」
「誰も見てませんって」
「家、目の前なんだから!」
「……傘で隠したらバレませんよ?」
「私は入家君とキスなんかしなくても、平気なの!」
「……ダメ、俺がムリ。」
……ああ、もう、うるせー!!!!
ーバサリっ
「えっ」
入家君の気の抜けた声がした時、
私は彼の襟元を掴んでいた。

