古民家を改装して作ったような、一見すると普通の田舎のお家のようなレストラン。
お店の前で立ち止まってその佇まいを眺めていると、先輩は美紅を抱っこしたまま、まるで自分ちのように上がって行ってしまった。
それについて私も慌ててお店の中へ上がった。
「お前んとこは、
いつから娘っ子が出来たんだ。」
「あ?可愛いだろ?つい今日な。」
「お前にも嫁さんにも似てないな。
よし、嫁さんに電話してみーか。」
「おいっ!それはやめーや!」
そんな会話が繰り広げられる中へやって来た私は、状況についていけずに突っ立っていた。
「おう、西藤こっち。」
呼ばれて先輩のところまで行くと、目の前でカウンターキッチンに立つ男の人に改めて目を向けた。
年齢は先輩と同じくらいだろうか、背が高くて色黒で髪は天パなのかよく分からない無造作ヘアになっていた。
それでもちょっと魅力的に見えるのは、顔が整っているからだろうか。
「こっちにいる間は、ここで飯とか食わしてもらえることになっとるから。」
「え、そうなんですか。」
「この辺、店も遠いからな。」
先輩の説明に納得し、その目の前の人に“よろしくお願いいたします”と挨拶しようと…
「はぁ?聞いとらん。」
はい?
「この前話とったがや。東京から知り合いが来るけん、飯とか頼んけんのって。」
「そげん前に言っても忘れるに決まっとうが。」
腕組みしたまま、平然と真顔で言って退けた
出雲弁であろう言葉の男。
な、な、何なの?
いくら忘れてたにしても本人達がいる前でそんな事言う??
「ま、今言ったけんな。頼んけんの。」
先輩が豪快に笑ってその男の肩を叩く。
男は軽く首を横に振り、ため息をついた。
何よ。感じ悪いやつ。
ちょっとムッとする私に先輩は改めてその出雲弁男を紹介した。
「ここ、『だんだん家(や)』の主人の
永瀬 秀次(ナガセ シュウジ)だ。俺の同級生。」
「西藤 美冬です。
この子は私の姪の美紅です。
よろしくお願いします。」
「おう。」
くっ。何よ、その横柄な態度!
心の中で毒づきながら、とりあえずお世話になるわけだから挨拶はきちんとしておく。
はぁ。せっかく良いところだなぁなんて思ってたのに…
一気にテンション下がっちゃった。
それから時間的に夕御飯の頃合いだったため、
夕御飯を食べさせてもらった。
煮物から、スープ、お魚のソテーと料理の腕前はやはりプロだった。
お子さまプレートを用意してもらった美紅は大喜びで、確実に永瀬さんに胃袋を掴まれていた。
ふぅ。ま、子供には優しいから良しとしよ。



