うつらふお姫様とちひさき約束


化粧室の鏡には頬を赤らめるあたしが映っている。
リップグロスを塗り直しながら、後ろ向きな考えが頭をよぎる。

今日のかずくんはなんだか“スマート”過ぎる気がする・・・。

あぁ、ダメだ。
考えたって仕方ないんだから。
ママの「大丈夫よ。」という言葉を思い出して気を取り直す。体を左右に振っておかしなところがないかチェックすると、化粧室を出て元の席に戻ろうとした。
けど。
そこにかずくんの姿はなく、店内を探せば彼は既に会計を終えたらしく入り口の方であたしを手招きした。

「お待たせ。あ、ごちそうさまでした?」

今までも一度たりと外食であたしに払わせることはしなかったけど、あたしとしてはそれもちょっと申し訳なくて要求されれば払うつもりではいる。
かずくんもそんなあたしの気持ちはわかっているみたいだけど、結局今日もごちそうになってしまうらしい。

「ん。・・・今日は缶コーヒー1本払わせないから。まゆの誕生日、ちゃんとお祝いさせて。」

一日遅れだけどね、と笑って、指を絡めて手を繋がれ、あたしたちは歩き出した。




結局気の向くまま車を走らせ、今は海岸線を流している。
青空と太陽を反射する海。
細く開けた窓から入ってくる風が心地いい。
大好きな季節だ。
海岸線を途中で山側に折れて、着いたところは大きな公園の駐車場。
駐車場から延びる階段を上った先には一面のポピーの花畑が広がった。

「うわぁ・・・すごい。」

「おぉ。オレも初めて来たけど圧巻だな。」