「まゆ、会いたかった。」

向かい合って座るカフェで、かずくんはあたしの手を握ってそう言った。
かずくんの言葉には、嘘も後ろめたさも感じられない。

「あたしも。」

あたしも会いたかった。それは本当だ。大好きな人だもの。
大好きだから不安だっただけだ。

「とりあえずランチして、ちょっとドライブでもしようか。夜は予約してあるから・・・あ、イタリアンだからランチにパスタはパスしておいてな?」

あたしは軽めに済ませたけど、かずくんは「朝食べ損なったから」と結構しっかりめのランチセットをあっという間にお腹に納めた。
食後のコーヒーを飲みながら、「まゆ、どこか行きたいところはある?」と聞かれたけど思いつかない。

「どこへでも連れて行ってあげるのに。」

ちょっぴり残念そうに笑うかずくん。それは少し前の“お兄ちゃん”の顔で、なんだか懐かしく感じた。

「どこでも、かずくんと一緒なら嬉しいよ?」

思っていることをそのまま口にしたら、かずくんの動きが一瞬止まった。
コーヒーカップをソーサーに戻し、左手をこちらに伸ばすとそれであたしの右頬を触る。

「・・・オレも。」

そっと微笑んで、親指があたしの唇をなぞる。
その動きに2週間前の別れ際のキスを思い出して心臓が跳ねた。

「綺麗な色だな。まゆによく似合ってる・・・あ、ごめん、触っちゃったから直しておいで。」

「う、うん。」

赤い顔を隠すように俯いたまま、あたしは化粧室へ向かった。