どこで待ち合わせにしようと考えて、駅前のカフェにした。
駅に向かうバスの中で、かずくんにメールを送る。

【用ができて外に出ました。お昼頃、駅前のカフェで待ち合わせにしませんか?】

用ができたなんてもちろん嘘だけど、ママの忠告は正しかったと出掛けにパパに言われたことを思い出して小さく笑ってしまう。
スマホをバッグにしまおうとするとメールを知らせる短い振動があった。
見るとかずくんから。

【了解】

たった一言だけのメールだったけど、驚くほど早い返信。
今日はもうお仕事は終わったのだろうか?それとも仕事中にこっそり送ってくれたのだろうか?

バスを降りて、駅の時計を見上げればお昼まではもう少しある。
駅前をぐるり見渡して、あたしは道路の反対側にある大型書店に向かうことにした。
暇つぶしには最適な場所だ。
目的があるわけではないから、ふらふらと書棚の間を歩いて気になるものを見つけては立ち止まることを繰り返す。
そして、うっかり時間を忘れた。
バッグの中で震えるスマホで我に返り、慌てて通話ボタンを押す。「もしもし」と小さな声を出すと「オレだけど・・・」とかずくんの声がした。

「まゆ、今、どこ?」

「うん?ちょっと待って・・・」

図書館じゃないんだから気にしなくてもいいのだろうけど、どうも本のある空間で大きな声を出すのは憚られ、あたしは足早に店から出た。

「ごめんね、お待たせ。ちょっと本屋さんに寄り道してて・・・」

駅の時計に目をやると、それはいつの間にか午後の時間を示していた。

「いや、そんなことだろうと思ってたし。時間指定してくれたから、仕事終わりに一度部屋に帰れたし。・・・あ、まゆ、見つけた。」

「え?」

かずくんの言葉にキョロキョロと辺りを見渡すと、あたしも数十メートル先から歩いてくるかずくんを見つけた。