今日のお仕事は何時頃終わるだろう・・・彼の仕事はきっちり時間通りにとはいかない。かといって、連絡が来てからでは支度が間に合わないかもしれない。
今までのあたしなら、迎えを待たずに彼の部屋に行っていた。でも、今日は1人あの部屋で待つことができそうにない。
時計とにらめっこしながら、クローゼットを開けて昨日のうちに選んでおいたワンピースを取り出す。襟と袖口にレースを使った、どちらかと言えば大人っぽい感じのもの。
髪をハーフアップにして、薄くメイクをする。
準備を終えてしまって、ベッドに座るとため息が漏れた。
なんのため息なんだろう・・・?自分で自分がイヤになる。

不意にドアがノックされ、ママが部屋を覗き込んだ。

「まゆちゃん、もしかしてかずくんお迎えに来る?」

小さな声で聞かれたからあたしが黙って頷くと、ママは部屋に入ってきてあたしの隣に座る。

「じゃあ、ここじゃないところで待ち合わせにした方がいいわ。滉さんがかずくんに余計なこと言わないように。」

悪戯っぽく笑うママはエプロンのポケットから何か取り出しながらそう言った。
取り出したのはリップグロス。それもラグジュアリーブランドのもの。
あたしの顔の向きを変えるとそれを唇に乗せていく。

「これ、滉さんには内緒よ?ママからのハタチのお祝い。これくらい背伸びしてもいいわよねぇ。」

ベッドに座ったままスタンドミラーを2人で覗き込む。
派手すぎない綺麗なピンク。思わず口角が上がった。

「よかった。よく似合ってる。」

ママもご満悦だ。

「かずくんなら大丈夫よ。あなたのこと、ちゃんと受け止めてくれる。1人で心に抱えているだけじゃ心配させるだけ。それは口にしないと伝わらないものよ?だからちゃんと2人で解決しなくちゃダメ。」

鏡越しで語りかけるママはいつもの柔らかい表情であたしを見つめている。

あたしはママの方へ振り返り、小さい頃と同じようにママに抱きついた。
ありがとうの気持ちを込めて。
ママはふふっと笑って、あたしの背中をポンポンと叩く。

ママから離れて、あたしは準備していたバッグを手にすると玄関へ向かった。
階段を下りるとパパが待ち構えていたかのように立っていて、あたしはママと顔を見合わせて苦笑いした。

「いつでも迎えに行くから連絡していいぞ?」

パパは過保護だ。

「ありがとう。行ってくるね。」

あたしは2人に手を振って家を出た。