「オレ、そろそろ・・・。」
場の雰囲気もまったりし始め、時計は21時をまわった。
立ち上がってコートを羽織るかずくんをパパが呼び止めた。
「カズ、忘れんなよ?」
口元は笑っているけど、目は真剣だ。
「はい。」
かずくんも穏やかな表情で、でも真剣に頷いた。
見送ろうとかずくんのあとについて玄関へ向かう。
「まゆ、ここでいいよ。」
靴を履いたかずくんはあたしの方に振り返って言った。
そこ代わり、とふわりとあたしを抱きしめ、触れるだけのキスをした。
「また連絡する。」
「うん。待ってる。」
昨日今日で慣れるわけないから、今もまたドキドキとしながら何とか返事をする。
かずくんは満足そうに微笑むと、「じゃあ」と片手を上げて出て行った。
「オレも帰る。」
タイミングを計ったかのように紘明さんが玄関に現れ、恋人との別れに浸っていたあたしはびっくりした。
もしかして、見てた?
「まーゆー、あいつに飽きたらいつでもおいで?」
「またぁっ!」
あたしの慌てる様子に大きな笑い声を上げながら、靴を履くと、玄関ドアに手を掛けた紘明さんは振り返らず帰って行った。
「まゆは可愛い妹なんだよ、オレにとっても。おやすみ~。」