うつらふお姫様とちひさき約束


和やかに(そう見えるだけ?)時間は過ぎていった。
お手洗いにと廊下に出たら、紘明さんが電話をしていた。
邪魔にならないように足早にすり抜ける。

用を足して出ると、紘明さんはまだそこにいた。電話は終わったみたい。
口元を片側だけ歪めた、見慣れた“意地悪な”笑みを浮かべているのを見て、あたしはイヤな予感がして、目を合わさないようにすり抜けようとした。

「まーゆー?」

ほら、きた。
語尾を微妙に上げた呼び方は、意地悪をするときのお約束だ。
聞かなかったことにしようとしたけど、紘明さんはあたしの腕を取って引き寄せると、身構えて強張るあたしの耳元に口を寄せてとんでもないことを囁いた。

「まゆ、あいつじゃなくて、オレにしておけばいいのに。」

「っ!」

耳に掛かる息と出てきた台詞にビクッと体が跳ねたのを見て、紘明さんは肩を震わせて笑い出した。
あぁ、やられた・・・

「もうっ!ひろさん、30過ぎても意地悪なのってどうかと思う!!」

「おまえが可愛いんだから仕方ないだろう?」

紘明さんはそんな冗談を言いながら、あたしをおいてリビングへ戻っていった。

もうっ!もうっ!もうっ!
かずくんの方がよほど大人だ。
洋子おばさんは“ウチのどっちか”って言ってたけど、好きになったのがかずくんで本当によかった!
紘明さんが消えていったドアを睨んで、あたしは心からそう思った。