あたし一人で考えても答えは出なそうだ。

「えっと・・・よくわからないこともあるけど、とりあえず、ありがとう。」

「ん?」

「ずっとあたしを好きでいてくれたこと。“お兄ちゃん”やめたいって言ってくれたこと。」

うん、と頷いてもう一度ぎゅっと抱きしめたあと、かずくんはソファから立ち上がった。ダイニングテーブルに起きっぱなしにしていたスマホが震えたから。
立て続けに入ってきたらしいメールを見るかずくんは、不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。

スマホに目をやりながらあたしも立たせて、部屋の隅にたたんであったコートを着せて、自分もコートを羽織った。

「・・・そろそろ行きますよ、お姫様。」

突然、楽しい時間の終わりを告げられ、あたしはポカンとかずくんを見た。

「王様に帰宅時間を指定されました。しかも、人使いの荒い人たちから買い物メモが送られてきました。」

芝居がかったため息をついてがっくりと肩を落としながら、スマホを渡された。

見せられたメールはパパからのもので、確かに18時までに帰宅せよと書いてあったけど。驚いたのは、膨大な買い物メモが続いていたこと。

「それだけじゃねぇぞ?」

ほら、とスライドさせた先には、洋子おばさんからの買い物メモ。
こちらもかなりの量で、余計なことが一切書かれていないのには思わず吹き出してしまった。

「まぁ、これからまゆを独占する時間はいくらでもあるからな、今日の所は従っておくことにする。」

あたしの手からスマホを抜き取りポケットに収めると、かずくんはあたしの手を引いた。
歩き出しながら部屋の入り口に置いておいた両親へのプレゼントも忘れず手にする。

頼りになるなぁ・・・

年上の余裕ってやつかなぁ?
それとも職業柄?
斜め後ろから見上げるすました表情にうっとり見惚れてしまう。

視線に気付いて振り返ったかずくんは、赤くなっているであろうあたしの顔を見てニヤリと笑うと耳元に口を寄せた。

「これから、覚悟しておいてね、真悠莉。」