うつらふお姫様とちひさき約束


お兄ちゃんと別れたあたしは、そのまま家に帰ってきた。

ただいま、と声を掛けるが返事がない。
リビングに入ると、ママは鼻歌交じりにツリーの飾り付けをしていた。

「ご機嫌だね。」

子どもみたいな笑顔でママが振り返る。

「あら、おかえり。早かったのね?」

「うん。お兄ちゃんのおつかいで疲れちゃった・・・」

ソファに鞄を放り投げ、キッチンに入る。
とりあえずココアでも飲もうと牛乳を温める。
本当に疲れた。
あたし、お兄ちゃんのこと何も知らなかったんだと思い知らされてちょっと落ち込む。
小鍋の中の牛乳が温まるのを待ちながら、相変わらずご機嫌なママに聞いてみる。

「ねぇママ、お兄ちゃんの仕事、知ってた?」

「えー?まゆちゃん、知らなかったのぉ?」

ママはきょとん、とあたしを見つめた。・・・やっぱり知らなかったのはあたしだけなんだね。

「・・・あー、もう、いいや。ママもココア飲む?」

「うん、ありがと。」

ココアを持ってリビングに戻ると、飾り付けを終えたママが満足げにツリーを眺めていた。
あたしが生まれた年のクリスマスにパパが買って来たツリーは未だ現役で、毎年1種類ずつオーナメントも増やして今ではだいぶ賑やかな感じになっている。

「まゆちゃん、今年はパーティーいつにする?滉さんはいつでもいいって言ってたけど、かずくんとは何日に約束してるの?」

ぶっ・・・ふーふーとココアを冷ましているときで良かった。ココアを吹き出さずに済んだけど、勢いで傾いたカップから少し溢してしまった。

「やだ、まゆちゃん。ヤケドしなかった?」

ママはさっとティッシュを差し出す。

「う、うん、大丈夫。」

あたしはティッシュを受け取って溢したココアを拭き取った。あぁ、ラグの上じゃなくて良かった。
それにしてもどうして急にお兄ちゃんと約束、なんてことになっているんだろう?

「あたし、お兄ちゃんとはなんの約束もしてないから・・・」

「えー?そうなのぉ?」

あら意外、とびっくりした顔をしたあと、決まったら早めに教えてね、とママは微笑んだ。
まるであたしたちが会うのは決まっているかのような物言い。
お兄ちゃんとはなんの約束もしてない。
あたしから会おうと言うつもりもなかった。
あたしはいつも通り、家でパパとママと過ごすつもりでいたから。